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3月
3月
湯呑
朝からちびちび呑んで
婆様に小言を言われ
聞いてるんだか聞いてないんだか
少し困った顔をして、また一口呑んで
手ぬぐいを頭にかぶり、畑へ向かう
岩木山の残り雪で豊作を占い
真っ暗になるまで働き
テレビの前で、真っ黒な手で酒を注ぐ
イヤホンを耳に、水戸黄門
途中で目をつむり船を漕ぎ
「終わったよ」と婆様に背中をたたかれ
無言でまた一口酒を呑み
家族を見渡して少しだけ笑い
よろよろと寝床へ向かい、パタンと戸を閉める
テレビの前に残された「長寿」と書かれた茶色の湯呑
ずっと前の敬老の日に買ってあげたもの
毎日大事に使ってくれていた
何も言わなかったけれど
両手で包むようにして呑む姿は
大切な家族を守ろうとしているようにも見えた
今では酒が注がれることもなくなった湯呑
仏壇の中にひっそり納まっている
ひと回り小さい
同じ湯呑と一緒に
※じい様の十三回忌の時に書いたものです。
なぜかさっき、実家から
「おめぇ書いたのが?変な詩みて~だのが仏壇の奥がら出できたよ」
と電話があり、思いだしながら書きました。